二十数年ほど、ほとんどSFを読まずに生きてきた。
ハードSFで語られるような物理学や宇宙工学の素養も何もない。高校物理でなんか矢印が引っ張られているあたりで終わった記憶があるだけだ。(まあ、一応看護師なので脳科学だけはちょっとだけ知識がある。ちょっとだけね)
そんな私が、何の因果か勧められた「宇宙消失」を読んで、衝撃を受けたのが、もう十年近く前のことだったと思う。
たぶん、ほとんど内容は理解できていないのだが、未だに、連続で「上」が流れる時のなんともいえぬゾクゾク感、その後の病院での「絶対に成功する」ミッションのはらはらドキドキ感が思い出せる。
SFって、すげー!
と思って、それからだんだん、ほかのSFに手を出すようになり、SFの読書会に遊びに行ったりもするようになった。
イーガンはだから、私にとって、とても大切な作家なんだよな。
もはや友達に近い(と勝手に思っている)読書会のメンツと、最近意気投合してイーガン読書会をしようという話になり、あれ?これって私が主催なの?愛しかないけど大丈夫?と思いながらも、あれよあれよと集まったのが私含め7人。とりま「白熱光」で、という軽いノリで開催。
当日になったら何人か欠けるだろうなと思っていたらまさかの全員参加。未読は二人のみ。イーガンってやっぱ、すげー!ということで、無事に終わりました。
ほんとうは対面でおしゃべりしたかったんだけど、疫病くそ野郎が広がっているので泣く泣くオンライン。
オンラインだとメモ取りにくいのがつらいんだよな~(机の周りを綺麗にしなさい)
今日はその報告ということで、一切何もわからない手帳の汚いメモを見ながらまとめてみたいと思います。なんか間違ってたら、ごめんね。
まず、割とちゃんと図を書いたりメモをとったりして読んでいる人がいて感動。私はもう諦めて巻末解説と解説サイトを見てわかった気になって進めたよ。
スプリンターで異星生物たちがわちゃわちゃ実験して、物理法則を解明していくあたりは、面白いけど難解でしんどくもある、という感じ。中盤まではちょっとしんどく、時間もかかるが、それを過ぎたら一気に引き込まれて読めた、という意見が多かった。
私は「重力とは何か?」という初心者向け物理新書を読んでいたので、内容はわからないけどどうやら一般相対性理論について話しているようだ、というようなことがわかってよかったというような話をしました。
余談だけど、イーガンのおはなしより、よっぽど現実のほうが意味わかんねー!なのがわかって大変面白かったので、この本とってもおすすめです。
内容はわかんなくても、ロイやザックが様々な発見をしていく様や、そこに仲間が集まっていく様子などは共感できる部分が大きく、地味ながらめちゃめちゃ面白ポイントだな~って話も。
私はその辺、「チ。ー地球の運動についてー」という漫画とも重なる部分があるなと思って紹介。これも面白いよ。
また、他の生命体の生態を描いた作品として、「竜の卵」と似ているよという話も教えてもらった。読んだことないので読んでみたいけど、キンドルになかったのでまだ買ってない。そのうち読むのでここに書いておく。
未来の異星人が地球であったような物理法則発見を再現する、というところから、未来の火星でトロイア戦争をやるらしい「イリアム」「オデュッセイア」を思い出すという話も。うおーダン・シモンズ!
読めば面白いのはわかっているんだけど(ハイペリオンは読んでる)、とにかく長いので、遠い未来で読みたい本のコーナーに置いてあった本でした。読みたくはある…遠い未来が近づいてくるか…
最近話題の映画「ドント・ルック・アップ」の話も上がる。まさに逆白熱光で、危機が訪れるものの、世界が馬鹿すぎて滅亡するおはなしとのこと。ある意味こっちのほうがリアルでは?なんて話をしながら、イーガン先生は知性への信頼が強いな~という話で盛り上がった。
ロイやゼンの種族は危機があると知性が覚醒する脳デザインということだけど、人間も同じなのでは?我々の社会のメタファーにも読めるのでは?という話も。
たしかに現実でも、戦争が繰り返される時代では優秀な人間が多く輩出されたり、戦争で使用される兵器から様々な科学技術が発展したりと、我々の社会も危機を乗り越えるために技術を進歩させたという経緯がある。
実際世界的な危機に瀕したら人類はどうするんですかね。私としてはとりあえずみんな平等に死のうみたいな世界も優しくて好ましくあるんですけど…。
あとは、ほぼ全員が解説に書かれている四つの勘違いに引っかかっていて面白かった。
というか、イーガンが意図的に勘違いさせてるよねっていう。そして中性子星とブラックホールの違いなんかわかんねーよっていう。よく読むと確かにわかるように書いてあるんだけど、別の読書会では専門の人もわかってなかったよという話を聞く。
この辺は色々話が出たけど、実際イーガン先生のミステリ的手法がちょっとへ…た…(小声)
実際、宇宙工学に精通してて、読解力の高いひとじゃないと、ほぼほぼ引っかかると思いました。
私は途中で解説を読んでしまったので(ネタバレ全く気にしないマンなので)、内容から理解したわけじゃないんだけど、そうしないとおはなしが成立しないよな~~と思った。
んだけど、勘違いするとどんなおはなしになるの?て聞いたら、ラケシュたちの話がロイたちの話の以前と考えたとのこと。そうなると、完全におはなしの筋が通らないわけでもなくなるので、うーんイーガン先生ちょっと失敗してるよ~という気になりました。
ロイ達の未来が孤高世界っていうのが、もっと明確に書いてあれば勘違いもなくなっただろうに…。これなんで濁してるんだろう。壮大なロマンだと思うんだけど…濁す意味ないと思うんだけど…。
私は解説読んでから読了したので確信していたんだけど、やっぱりそうだよね?と声が上がったので、勘違いにハマったまま読むと、この辺も流れてしまいそうでもったいないな~という気がしました。
もちろん、二度読むと、色々なところでわかるようになっている仕掛けがあるけど、いやーなかなか二度読むのはきついよね。
ちなみに日本での最新刊「ビット・プレイヤー」では、孤高世界と初めてコンタクトをとったリーラとジャシムの夫婦SFが読めるのですが、「白熱光」でハフが言った通り、近付く者は子どもにするように、ちゃんとハブから追い返していてちょっとにっこりしました。
孤高世界、やはり魅力的過ぎる…アイディアとしては最高以外の何物でもない…
ゼイについても話題に上ることが多かった。
最終的に個人の幸せの話に帰結するところが面白かったという意見や、ゼイに自分を重ねて感じ入ってしまうという意見が上がった。
ただ一人知性を発現させてしまったがゆえに、孤独に生きていたゼイにとって、ラケシュの存在は救世主のように見えたかもしれない。
「許していただきたいのですが、あなたの体のいろいろな違いが気になってしまうのです」ラケシュを警戒しながらも、どうしてもそう口に出さずにおれなかったゼイを思うと私もせつなくなってしまう。
「あなたがそうしようと思えば、わたしたちを眠りからさますことができるはずです」
読み返すとこのセリフも痛いほどせつないですね。
でも、高度な知性というのが幸せなものなのか、私にはよくわからない。
ロイパートの中でも、協同作業の快感だけを目的に生きるような世界を良しとするかどうか?が問われている。
でもそれって幸せじゃないのかなあ、と私は思ってしまうのである。みんな平等に死ぬ優しい世界と先に書いた通り、私は作中で夢中歩行状態、協同作業を繰り返す安楽な世界はめっちゃ幸せじゃないのかな~と思ったりする。
なんていうか、私はいつだって、ほんとうはみんなと一緒にサイリウム振りたいのにって思ってる人間なんだよね。でもいつも私のサイリウムだけ用意されてないの。辺鄙なところに席だけはあるのね。ステージにも立てないので、いつだって私は、そこにぽつんと座ってるんだわ。
話がそれました。
読書会でも、あれは幸せそうに見えるという意見はやっぱりあった。
ロイたちが物理法則を発見したときの快感は理解できるけれども、結局のところ、ロイのもとに集まった仲間たちの大半は失明したり、死んだりする。自分の子どもに執着を向けるようになり、今までなんとも思わなかった生殖行為に躊躇が生じる。
ロイは知性を発現させたことで、不幸になったともいえるんじゃなかろうか。
イーガン先生は、こういう疑問に対して、いつも答えを出さないので好きだ。逃げるわけではなく、中立であり続けるために、多様性を提示し続け、問い続ける。イーガン作品全体を通して、最も面白いポイントの一つだと思う。
そういえば孤高世界がなぜ直接箱舟を救えないのか?という点も謎として話に上がった。
私は先の幸せ問題を上げて、孤高世界でさえも、知性を発現させるのが正しいかどうかわからないからと挙げた。
他には、孤高世界は何らかの制約があって動けないのでは?とか、進化の果てにもはや考え方などが変わってしまい、ラケシュたちのほうがゼイたちに近い存在になってしまったからなどが挙がった。
実際、DNA生まれのラケシュとそうでないパランザムにはかなり考え方の違いがあることを考えると(この辺もイーガン先生の面白ポイントなんだよね)孤高世界がもはや種族として何か超越した存在になってしまい、価値観やら何やら変わってしまったというのは説得力がある。
この辺は書いていないことが多すぎてわからないが、色々な解釈を膨らませると面白い部分だと思う。
ラケシュは孤高世界について、また夢中歩行状態に戻っていると考えているけど、それもどうなのか怪しい。
本当に数世代で知性が落ち着くなら、孤高世界というものが作られることもなかったのでは?と思ってしまう。それとも孤高世界ができるまで延々と危機が途絶えなかったのだろうか…。しかしそれ、めちゃめちゃ、しんどいね。
今のところ孤高世界をちゃんと描いた作品はないみたいなので、イーガン先生の新作を待ちたいと思います。
だいぶ長くなってしまった。
他にも色々と話していたのだけれど、独断と偏見でまとめた結果、こんな感じになりました。ご参加いただいた方々、ありがとうございました。なんか間違ってたら教えてください。
読書会があったので読み切れてよかった、面白かった、イーガンが好きになったという感想を聞けて、主催としてはとても嬉しかったです。
次回もやりたいという声も上がり、次は4月に順列都市の読書会をする予定になった。
順列都市は、人間が生物としての人間を捨て、電脳世界に飛び込んでいくおはなし。イーガンの世界観のベースとも言えるおはなしなので、みんなで話し合えるのがめちゃ楽しみ。私は既読なんだけども、かなり忘れているので再読するのも楽しみ。
今度はくそ疫病がなんとかなって、顔を見ながらおしゃべりできたらいいなあ。できれば二次会もやりたいし酒が飲みたいねえ。