かみむらさんの独り言

面白いことを探して生きる三十路越え不良看護師。主に読書感想や批評を書いています。たまに映画やゲームも扱っています。SFが好き。

神父の死にざまがめちゃめちゃエモい理由について語る(Thisコミュニケーション ネタバレ考察)

Thisコミュニケーション8巻発売おめでとう!!(例によって遅い)

ついに本誌派に移行してしまった昨今です。

まあ、どちらかというと、界隈で打ち切りの危機が囁かれていて、これはマズイと毎月本誌を買ってアンケートに答えよう!というのが目的なんだけど……。

でもこのブログでは本誌のネタバレはしない予定なので、安心して読んでね。

いやあ、8巻もまた、内容盛りだくさんでした。

デルウハコピーとの戦い、そして神父(二本足)との決着。生き残りの環境破壊グループ皆殺し回を挟みつつ、因果応報的にデルウハの暴挙がバレ、2回目のデルウハVSハントレスが始まってしまう、という流れ……。

やはり見所は初っ端デルウハコピーによみをぶつけてスタコラサッサと逃げるデルウハに、「死ぬ刻は一緒のようだな」と格好いい言葉を吐きながら内心はハントレスを自分のために使い潰す気満々のデルウハ、暴挙がバレた際によみは俺の側に付くと確信して助けを求めるデルウハ、あたりの最低最悪コンボですかね。

なにが「俺たちで…またやり直そう…!」だよ!

しかし、デルウハ、やはり世界を救う!とか言っちゃったあたりがほんとうに失言だったのね、というのがよみちゃんの反応でわかる。

あんなこと言わなければ、皆殺しにしてくれるポテンシャルがよみちゃんにあるというのもエモエモだね。「檻の中ならあんたを守ってあげられるよね…?」痺れたわ。

e-nekomimi.hatenablog.com

これ、昔書いた考察なんだけど、やはりよみちゃんの中でハントレスたち<デルウハが進んでいる感じは間違いないなと思ったし、よみの望みが「デルウハがいること」なのも確かだと確信。案外的を射たことを言っているじゃないかぼくは。

しかし、戦いが激化し過ぎて、デルウハが世界を救うとか言って死んじゃう恐怖、というのが大きくなってきたことまでは読めなかったな。よみちゃん、強くなり過ぎてデルウハに頼る必要がなくなってきちゃったのね。

こりゃあ、デルウハに対して「殺さないでくれ」って言うよりも、「デルウハを殺さないで」って何者かに哀願する率のほうが高いんじゃないか?

そういえばむつちゃんも、やっぱりまだ諦めてなくて、これも私の予想が当たった結果になりました。あんなに絆されてた感じだったのに、デルウハを倒すためのとっておきをちゃんと考えているなんて、なんてサイコパス!(誉め言葉)

さあさあ、これからの展開がとても楽しみですね……本誌読んでちょっと知ってるから不安でもあるんだけど……。

そしてお腹が減らないので殺されるコピーちゃん、謎の可愛さ。

まあ初回でも、もう飯が食えないと判断して自殺しようとしていたし、飯を食う楽しみ>>>生き延びることなんだろうね。

しかも味を楽しむというよりは、単に空腹を満たすという活動が好きっぽいぞ。

イーガンの「ディアスポラ」でデータ人類になろうと、排泄の快感は手放さないと言っていたおじちゃんと似たようなもんなのかね(急に全然畑が違う作品持ってくる)

デルウハだけ1巻から延々とブレないまま、最低最悪さだけ更新していくので、ほんとうにいいキャラだなあと思っています。

いつまでこのままなのか、とても楽しみ。

 

さて、8巻の最大のエモいシーンは、やっぱり神父だったんじゃないかなと思う。

まさかこの私が神父に心を打たれるとは……。

ということで、今回はスナッフビデオ大好き吉永神父について語っていこうと思う。

もともと語ろうと思っていたいちこは、実はこのちょっと先の展開で、より語りやすいシーンが出てくるので、そこをどうしても踏まえて語りたいので、延期です。

いちこもいちこでデルウハにクソデカ感情抱いててマジでイイ!んだよなああ。早く語りたいけど、本誌のネタバレはしないんだ……まだ……今のところは……。

そんなわけで吉永なんだけど。

今回、決着が着くことは予想していたものの、まさかデルウハを自らの意思で助けたうえ、あんなに満足そうに逝かれるとは思いもしなかった人が多いんじゃないだろうか。

作者自身も予定外の出来事だったっぽいし、こういうのが俗に言う、キャラが勝手に動いたというような感じなんだろうね。

これは予想だけど、作者的には、吉永にデルウハが正しさを説いて納得させる流れを考えていたんだと思う。だから、「俺を救ってくれよ吉永…‼」の部分が描かれていなかったんだろう。

いやこのシーン、初読の時、こんなこと言ってた!?と思って遡って探しちゃったんだよねえ。そして、このシーンがあらかじめ描かれていないのは、この作者らしくないと思った。だって、ミステリ的には描いていてしかるべきだもん。

ただ、正しさなんかで動く吉永ではない、っていう今までの蓄積が、ラストを捻じ曲げてしまった。

そんな、吉永とは、どういう人間だったのだろう。

たぶん、読者の多くはこう答えるだろう。合理的なことがわからないおバカちゃん、と。デルウハも、正しいからいいだろうと言って誠実さを放棄していると指摘している。

読者の大半はデルウハに感情移入している関係で、神父むかつく~くらいに思っている人も多いと思う。私もそうだった。

しかし、今巻の神父があまりにエモかったので、神父登場シーンをあらかじめ読み直したところ、案外こいつ、デルウハに並ぶくらい思考がブレてない男だな……と思ったので、解説していこうと思う。

いや、まあ、でもおバカちゃんはおバカちゃんなんだけどね。

 

Thisコミュニケーションのキャラクターは、たいていの場合、本人の望みが明確に描かれている。たとえば、デルウハが飯、むつがハントレスたちと仲良くすること、など。

吉永も例外ではなく、彼の望みははっきりと描かれている。

テレパシーの能力が信じられること、そして、能力によって誰かを救うことである。

後者はたびたび吉永自身が言っているので説明不要かと思うし、前者はよく読めばしっかりと書いてある。一番わかりやすいのは3巻の144ページと181ページだろう。

今思えば初めてだったんだ

この研究所で僕の能力を信じてくれたのはいちこが…

僕には能力があるのに…

何故信じてくれないのですか?

の2つのシーンである。このセリフから吉永が自分のテレパシー能力を信じてくれることを強く望んでいるとわかる。

研究所の人間は憎いと語り、所長の言葉に一切耳を貸さない彼が、ハントレスたちに並々ならぬ愛着を感じているのも、この思いが強く関わっている。

もちろん、デルウハ=悪を自分の能力で倒せるかもしれない、という期待も一つあるが、そもそものところ、むつなら自分の能力を信じてくれそう?という期待から、ハントレスへの愛着が始まっている。

その期待は、4巻の187ページからのむつとのシーンで、実際に報われることになる。むつの信頼の裏には、自分の能力を信じてくれた、望みをかなえてくれたということが大きな一因としてある。

さて、吉永のこの望みは、いつ形成されたのだろうか。もちろん、幼少期のバースデイである。3巻105ページ。

この子 超能力があるわ!

将来はスーパーヒーローになっちゃうかも…!

ああ……こんなことをママンが言わなければ、吉永はもっとまともな人生を……歩めなかっただろうなあ……ばかちゃんだもんな……。

悪口を言うために引用したのではなかった。私が言いたいのは、吉永は、このときのまま、幼いまま成長してきてしまったということだ。

ふつう、幼少期の夢はいつか終わりを迎える。しかし、17の二度目のテレパシーの時も、吉永は真っ先に警官に能力で見たものを伝えてしまうし、ついに人を救うのかなどと心情を語ってしまう。

おい、お前、11年もテレパシーなかったのに、まだママンの言葉を信じてたんか!!

びっくりするほどのばかちゃん……純粋と言えなくもない。単純で、人の言うことを疑わなさ過ぎる。そのうえ、全然知らない警官の言うことを聞いて、長野の山奥まで行ってしまう。

そして幾星霜の月日が流れ……テレパシーの頻度は10年くらい、という話だったので、吉永が今50代近かったとしても(実際は30~40くらいだろうけど)、研究所に来てから多くて3回くらいしかテレパシーを経験していないはずだ。

それなのにまだ超能力にこだわってんの!!?ばかちゃん過ぎんか!?

吉永の幼さは、そもそもが幼い気持ちのまま青春を過ごし、成長すべき青年期すら研究所という隔離された場所で失ってしまったというところにある。

彼はそのまま、研究所で憎しみに苛まれながら、それでもまた研究をしてもらえるかも、と期待を抱いて(それもまたすごい話である)自分を信じてくれる誰かを待ち望んで生きてきた。

こう書くと不幸なようだが、夢や希望を持ち続けてブレない人生を送っているという意味では、デルウハと然したる変わりはないようにも思えるのである。

 

そんな吉永は、イペリット化しても、当然ブレない。永遠に彼の夢は変わらないし終わらないのである。そしてばかちゃんなのも変わらない。

6巻、7巻の美坊子編で、吉永は柿を盗んだ葉のために、研究所に柿を取りに行く。

お前、葉ちゃんがまじで柿が欲しいと思ってたの?ってみんな思わなかった?

私だってあんな状況であんな記憶見えたら、「盗人扱いされてつらかったね」くらいは言うぞ!

あの時 僕は 葉の素朴な願いに応えて 柿だけを取って去るべきだった

じゃねーんだよ!!(これは8巻の冒頭ですね)

しかもついでにデルウハの脳を取ってしまったことを「なのに―――思い出してしまったんだ」と後悔しているけど、これ、臓器のコピーがあるっていうことを思い出しているシーンの裏に、むつの体を集める云々の話を思い出したっていうのも、たぶんあると思うんだよね。にこを殺そうとした時も思い出してたし。

つまりこいつ、デルウハを倒すのに、彼の体を集めるのが効果的だっていう言葉を鵜呑みにしちゃっているんですよ。

いや~……あまりに単純すぎる!なにもかもがあまりに幼くて……つまりとても、ばかちゃんなんだこいつ!!

そりゃあ、むつに「もういい」なんて言われたらキレちゃうよね……。

さあ、こんな純真無垢でわかりやすい男、何かに似ています。もうおわかりでしょう、ハントレスたちです。

つまりは、デルウハの格好の餌食ってこと。

デルウハは、おそらく吉永のこの人格や望みなど、とうに見抜いていただろう。だからこそ、たびたび説得、対話という手段を選んだ。それが自身の勝利に繋がると確信して。

デルウハは7巻の180ページで、嘘を携えて吉永に対峙する。そして吉永はまんまと乗せられ、デルウハの心に浮かんだ質問にも答えている。

おそらく、デルウハは、ここで吉永の超能力の内容について、意図的に探っている。そのうえ、結論にも達している。だから、「なるほど、入力”も”できるのか」なのである。

ちなみに、これは私が読み解いた吉永の超能力の全容なのだが、その時思い浮かんだ記憶と心の声がわかること、その際、少なくとも顔(=脳?)が見えている必要があること、二本足の力を用いれば、自身の心の声や記憶の入力もできることが挙げられる。

デルウハ、7巻の途中まで超能力を一切信じてなかったわけだけど(53ページ参照)、それでも能力の可能性を疑って探りにくるあたり、隙がないよなあ……かっけえ……。

そして、8巻に至る。

何回も説得に失敗しているのにも関わらず、デルウハはまた吉永の説得にかかる。デルウハには、今度こそ成功するという打算があった。

1つは、ハントレスたちについて語り、自分なりの正しさを説くこと。もちろん記憶も意図的に見せている。

そしてもう1つが、吉永に救ってくれと心の中で呼びかけること。当然、真正面から、顔を見て。

どちらかは、あるいはどちらも吉永に刺さるだろう、と確信していたはずだ。そして後者が、吉永にはクリティカルヒットだったわけですね。

つまり、デルウハはなにもかも意図して吉永を攻略しにかかったわけである。他のハントレスたちと同様に、吉永をも仲間に加えたのだ。

小さいコマなのでわかりづらいが、194ページで、ちゃんと「満足させた上に首を落とした神父」と語られている。デルウハは無意識下で救ってくれなどと呼びかけたのではなく、これも戦略のうちだったのである。

まあ、吉永自身も、デルウハの意図には気付いていたはずだ。

でもこの男、過剰に純粋なので、今までの諸々はかなぐり捨てて、自分の能力を信じてくれたこと、その能力を使って誰かを助けられること、の嬉しさが勝ってしまったんだよね。

吉永春は、この時、人生賭けた夢を叶えることにした。

そんな夢なんか捨ててたら勝てたのに、正しいことも悪を裁くことも全部できたのに……。

しかし、彼はそれで満足だったわけだ。そうだね、何も成せなかったけれども、スーパーヒーローにはなれなかったけど、少なくとも人生全部、報われたもんね。

最後の最後まで、ほんとうに、ばかちゃんで、ブレない、格好いい男でした。

ずっと この力で誰かを救うのが夢だった

まさかその「誰か」があなたのような人とはね

デルウハ殿―――…

 

まさかこの私が神父なんかにこんなに時間を割いてしまうとは……Thisコミュニケーションとはかくも恐ろしい……。

いやあ、考察をするときは少なくともキャラクターが登場してるシーンを全部拾って何回も何回も読みこむんだけど、Thisコミュニケーションも早8巻。なかなかきつくなってまいりました。

しかし、読み込めば読み込むほど、ストーリーの整合性の取り方が半端じゃなく、ほんとうにこの作者すげーなと思う次第。

キャラクター一人一人の描き方も、凄く丁寧だし、魅力的。神父なんか全然好きじゃなかったのに、ここしばらく死ぬほど神父の顔を見たよ。飽きなかったよ。

なんでこの漫画打ち切りの危機とか言われてんの???みんなばかなの???見る目がないの???もっとメディアで取り上げてもよくない???

タイトルがあんまりキャッチ―じゃなくて略しにくいくらいしか欠点がないんだけど……。

とりあえず、しばらくはこの漫画のために生きてるので、毎月せこせこアンケートを書く次第です。1冊じゃ足りないかな……。

グッズももっと出ていいと思うんだな~……前回のアクキーは買い逃したし、東京ドームも行けなかったけど、次出たら絶対買うから……(ちょっと前は単行本買っておけば打ち切りなんかならないだろ人気作だろって思ってた)

みなさん、好きなものは存在しているうちに最大限応援しましょうね。コンパイルが倒産したときの悲しみを20年経っても覚えている者より。

では、また次巻が出たら、今度こそいちこについて書きます。この記事が少しでもThisコミュニケーション界隈の賑やかしになりますように!