かみむらさんの独り言

面白いことを探して生きる三十路越え不良看護師。主に読書感想や批評を書いています。たまに映画やゲームも扱っています。SFが好き。

最近読んだ老神介護とソラリスについてネタバレなしで語ってみた

とくに書くことがないな……最近読み込んだおはなしもないしな……。

と思ってたら、ちょうど、今週のお題「最近おもしろかった本」というのがあったので、軽く最近読んだ本二冊の感想でも書いてみようと思う。

ほとんど作品紹介のつもりでネタバレを避けているので、興味を持ったらぜひ手に取ってみて欲しい。どっちも面白いから。

老神介護 劉慈欣

待ちに待った劉慈欣の新作短編集である。そらもう喜び勇んで買った。

同時発売の流浪地球のほうも、もちろん購入済みだけど、なんか色々忙しくてまだ読めていない。

90年代~2000年代初期くらいの短編が5編収録されている。

前作の円に比べ、ボリュームは劣るものの、内容の濃さは敗けず劣らず。三体や詩雲のようなぶっ飛んだセンスオブワンダーもちゃんと味わえるので安心。

私の好みは表題作の「老神介護」と「白亜紀往時」。

「老神介護」は、人類の創始者を名乗る老人たちが突如地球に現れ、家族と飯をくれと訴えてくるおはなし。老人たちは数千年の寿命と高度な宇宙船を持つが、ぬくぬく生きてきた結果、技術も知識もぜんぜんない。死なないただの衰えた金食い虫を養うしかない人類は、やがて彼らに辛く当たっていく……というのがあらすじである。

もうこれだけで単純にネタとして面白いし、劉慈欣らしい人間は愚か節が存分に楽しめるのだが、ラスト付近で、これまた劉慈欣らしいびっくりオチも持ってくる。とにかく読んでいて飽きない。

それにしても、中国の、しかも2005年の作品でありながら、日本の現状を風刺しているようにも見えるのが凄い。バリバリ高齢者社会で生きる我々にこそ突き刺さる強烈なテーマである。

とくに、(良い意味でも悪い意味でも)先の見えない老人の介護現場を知っている者にとっては、わかりみがゆえに胸が痛くなるのではないだろうか。

白亜紀往時」は、劉慈欣の大好きな恐竜と蟻(他作品でも良く出てくる)がたくさん出てくる、童話のようなたのしいおはなし。しかしここは劉慈欣。ちいさい生き物とおおきな生き物は手を取り合って楽しく暮らしておりました……とはいかない。

恐竜は小さな蟻の働きのおかげで医療やテクノロジーを発展させているが、蟻としては奴隷のように使われているだけなのでたまらない。ストライキを繰り返し、反撃を企てている。実は、蟻は恐竜の大きな脳から生み出される発想のおかげで豊かな生活をしていられるのだが、当然そんなことは考慮に入れないわけである。

さて恐竜は恐竜で、同種同士で争い、高度になり過ぎたテクノロジーを持て余し、時は冷戦真っ只中。蟻のストライキを気にしながらも、そんなに構っていられない。さて、蟻の企てはちゃくちゃくと進むが……?というあらすじ。

これはもう、ただただ世界観がメッチャ面白い。まあ、この二つの生き物同士が上手くいくわけがないのですよ。

動物に知性が備わり、人類に代わって文明を築くといえば、手塚治虫の「火の鳥未来編」で描かれたナメクジ文明がパッと思いつくのだけれども、読み口は少し似ている気がした。

どちらも、描かれているのはこの上ない悲劇なのに、ビジュアルがあまりに喜劇的なので、共感や感情移入はなく、ただ強く印象に残るのだ。

今回紹介した2編の他に、「老神介護」の続編である「扶養人類」や、中国で国語の教科書にも採用された「彼女の眼を連れて」、地球を縦断するトンネルで意味わからんビックリテクノロジーが披露される「地球大砲」の3編が収録されている。

余談だけど、「彼女の眼を連れて」、あまりに新海誠っぽいおはなしだったので、「ほしのこえ」じゃん~と笑っていたら、新海誠が活躍する前に書かれたおはなしだったので真顔になってしまった。

しかも本人はウケるものを書き、決して自分の書きたいSFじゃなかったと語っているとか。

私は三体Ⅱを読んで以降、劉慈欣の恋愛観マジ新海誠と思っていた(だって本人が影響受けたとか好きだとか言ってるんだもん)んだけれども、今回のことで色々考え直さねばならんと思うようになってしまった。素で発想が新海誠なのか、大衆にウケるネタだと思って新海誠になっているのか……。

まあ、三体の登場人物について問われたときに、あんなの実際にはいませんよとかいう人だからなあ……。インタビューだと単にひねくれてるだけなのかもしれない。

劉慈欣、日本に来て講演とかサイン会とかやってくれないかな。中国語まるでわかんないけど、来日したら絶対そっとお姿を拝見しに行くんだけどな……(チキン)

ちなみに円のように全作品レビューをするかどうかは、現在検討中です。需要……あるのか??

ネタバレ感想書きたい気持ちはあるんだよなー

 

ソラリス スタニスワフ・レム

2作品目は、意味が分からない、ということで有名なレムの代表作品。方々に影響を与えた大作である。有名どころだと、森見登美彦の「ペンギン・ハイウェイ」とか。二度の映画化もされている。

ずっと読もうと思ってはいたのを、やっと今回読んでみた。

ちなみに前情報は一切なく、あえて言うなら友人の「レムはいいよ!」という言葉だけ。ネタバレ厳禁なひとなので(?)何がいいのかは説明してくれなかった。

さて一体どんな複雑怪奇なおはなしなのかと思っていたら、案外普通のおはなしだな、というのが読み始めての第一印象。

ただ、読み終わってみれば、いや全然普通じゃないやん……、という。

あらすじをまとめると、主人公は惑星ソラリスにある謎の「海」の研究のため、ソラリスのステーションに降り立つ。しかし、同僚の研究者は酒浸りと引きこもりで様子がおかしく、親交のあった同僚は自殺している有様。明らかに何かおかしいことが起こっているのだが、なぜかは教えてくれない。なんとか現状を探ろうと、ステーションを探索していると、次々奇妙なことが起こり始め、ついには、自分が自殺に追いやってしまったかつての恋人が立ち現れる……!?

と、おはなしだけなら、ホラー、サスペンス、ミステリー、あるいはラブストーリーのように読める。実際、これらの要素は作品の中にふんだんに含まれている。しかし、この作品、このようなジャンル小説を期待して読むと、ただただ困惑して終わってしまうだろう。

ではこのおはなしはどういうおはなしなのか?

あえて言うならば、これはソラリスの「海」研究日誌である。

ソラリスの「海」は、生命のようにも、機械のようにも、自然現象にも見える奇怪な現象を繰り返す。この現象の記述と研究者の解釈が、この本の半分くらいを占めていて、とんでもなく膨大で緻密なのである。

奇怪と書いたが、並みの奇怪ではない。気が狂いそうになるレベルに奇怪なのだ。

そしてその奇怪な現象の一つとして、主人公の物語は語られている。だから、このおはなしには、まとまりのある起承転結や迫力のあるシーン、アッと驚くどんでん返しは、無いに等しい。

読者は主人公や同僚たち、そして「海」を観察し、研究者たちの解釈を読み、最終的には自分なりのソラリス像を掴んでいく必要がある。そこに答えはなく、なんなら暗い闇のような無理解さ、意味不明さが広がっている。

しかしそれは、案外、飼っている犬の真意を知ることがないようなもの、あるいは、家族のほんとうの気持ちを知ることがないようなもの、なのかもしれない。

やだあ、こわい……。

と、なんかこわいことばかり述べたけれども、おはなし自体は決して難しいものではなかった。難解な物理学や生物学なんかは出てこないし、読みにくい部分はほとんどソラリスの研究資料の部分である。多少読み飛ばしても問題なく読める。

起承転結などなどがないと書いたけれども、おはなしが面白くないわけではない。主人公にも感情移入しやすいし、彼の心の動きを追うだけで感情が揺さぶられる。風景描写などもとても鮮やかで、二つの太陽の光によって見え方が常に変化する部屋や空はとにかくうつくしい。

ちゃんと上手い、面白いおはなしなので、安心されたし。

ただ、複雑。私は読み終わって、何を思えば良いのだろう、と思った。突きつけられたものに対して、考えることが多すぎて、フリーズするしかなかった。今はちょっと時間が経ったので、解説などを読みながら少しずつ考えている。

何かいい形で語れるようになったら、ネタバレありでブログに書いてみようかな。

ちなみに、良く知らないで買ったのだけれども、今回読んだのは新訳のほうで、旧訳版は、「ソラリスの陽のもとに」とタイトルが若干違う。

旧訳は、ロシア語から訳したものであり、検閲されて1割くらい削られていたため、新訳ではポーランド語から全文訳したという話らしい。

と、考えると新訳版の方が完全版という気がするんだけれども、旧訳のほうが良かった、読みやすかった、という人も多数いるみたいで、機会があれば旧訳版も読んでみたいなあと思う。

 

さて、肩の力を抜いてサラッと語ってみたが、誰かの興味を惹いたら幸いです。

しかしSFばっかり読み過ぎてて、純文学とか全然読んでないなあ。昔は純文学ばっかり読んでたんだけどねえ……。

読みたいSF作品がどんどん積まれていくのが悪い。

そのうち、ブログで最近の純文学作品にも触れてみたいとは思っています。誰か最近面白かった純文学作品とかあれば教えてください。できれば新しめのやつで。