かみむらさんの独り言

面白いことを探して生きる三十路越え不良看護師。主に読書感想や批評を書いています。たまに映画やゲームも扱っています。SFが好き。

今年の総括と推し本について語る(日記)

今年ももう終わり。

ちらほら仕事納めとかいう人も出てきますが、相変わらず私は看護師をやっているので、31日に仕事を納め、1月2日から仕事始めです(元旦だけ休みだった)

基本的に夜勤ばっかりしている生活で、さすがにクリニック時代より読書量が減りました。でもなぜか体もメンタルも比較的元気で、時々落ち込んだ時は東方やったりブログ書いたりできたので、まあ生活としては安定してきてよかった。

安定してきたので、来年はもっと読書したり、映画見たり、美術館行ったりと、生活の文化度を上げていきたいと思います。

そういえば、地味に感染対策をしながら山登りも始めたので、来年はもっと登山回数を増やして、簡単な縦走や山小屋泊なんかにも挑戦してみたい。運動大事、マジで。

このブログも、月一更新だけは死守したので、来年はもう少し更新頻度を上げられたらいいなあ。

というわけで、今日は、だらだらと今年の推し本を小説、漫画について語ります。布教も兼ねているので、ネタバレはなしです。

 

◎「ディアスポラ」 グレッグ・イーガン著 山岸真

今年と言いつつ、まさかの1997年の本を持ってくるという。

いや、今年に関係はもちろんあるんですよ。最近大流行の三体シリーズです。

今年三体3の翻訳が出版された際、なんとなくちょうどディアスポラを読んでいたんだよね。なんか共通点多くない?と思ったら、訳者あとがきでも引き合いに出されていた。

具体的には書かれていなかったけれども、個人的には多次元空間への進出や人類の進歩をとんでもないスケール感で鑑賞できるあたりの読み心地が似ていると思う。この辺はSFならではの快感に溢れてるよね。

しかしなぜ三体3ではなく、ディアスポラを選んだのか。

簡単です。私がイーガン大好きなのと、ぶっちゃけ三体よりこっちのが面白かったからです。

ちなみに断っておくけど、三体シリーズ大好きだし、1も2も3もそれぞれ違った面白さがあって、かなりサイコーな小説です。というか、このブログ自体、葉文潔について語りたくて作ったし、かなり思い入れがあります。

ただ、イーガンのほうが、自分にフィットしてるし、好きなんだな~というだけのこと。

イーガンは面白い作家だ。検索すると、大方の人が、物理学や数学、脳科学などの専門的な内容が多過ぎてほとんど理解できない、でも面白いのだ、と言っている。意味が分からない。

当然私も9割5分理解不能である。ハードSFにもほどがあるのである。これはシルトの梯子という作品の話だが、物理学の現役教授が解説を書いていたのだが、シュレディンガーの猫の記号が可愛かったことしかわからなかった。

ディアスポラも例外ではなく、初見では何にもわからなかったので、感想や解説を読んでようやく5分くらいの理解を得た。

それじゃあ何が面白いのか。

それはたぶん、世界観なんだと思う。どこかで停止しない遠く、広がりを持つ世界。人類という存在の、愛に満ちた可能性。

イーガンの未来の中で、人類はデータ化され、何万年も生きる。

彼らはその中で自身の生き方に苦悩し、世界の謎や問題を探る。時には危機に直面し、研究し、冒険し、活路を得る。時には自身のどうしようもない人生を突きつけられ、悩みながらも決意する。

そしてイーガンは、その世界と物語の中で、読者に対して、折々に問いかけてくる。たとえば、生体コンピュータで生まれた生命らしきものは生きていると言えるのか?非合理的/非科学的な選択肢を選ぶことはただ愚かなことなのか?

と書くと分かる通り、内容の難しさはともかくとして、おはなしやテーマや問いかけられるものは、比較的単純で王道なものだ。

だから理解はできなくても、何かがわかる。描かれていることを理解したいと思い、努力した末、何か発見を得る。

イーガンの面白さは、特殊な面白さだし、万人に勧められるものではないが、ハマる人はハマるし、人生が変わる人さえいるかもしれないと思う。

ディアスポラは、先述した面白さがマックスに詰まった宝箱のような本です。人類とこの世界、宇宙について、一つの答えに迫っている。それを人間とは違う、ヤチマというAI(厳密には違うのかもしれないけど)と一緒に見にいくことができる。人類の愚かさも、素晴らしさも、ヤチマと一緒に、終焉まで。

ネタバレなしでは何も語れないので、とりあえずみんな理解できないことを前提に挑戦してほしい。頭おかしくなると思ったら止めてもいい、でも、半年くらい経ったらまた本を開いてみてほしい。

私もそうやって読んでる。でもなぜかおはなしを覚えている。なぜか印象的なシーンが思い出せる。

今年三体3とも読み比べて、三体もサイコーに面白いけど、やっぱりイーガンが好きだなあと思ったので、今年の推し本(小説部門)に選びました。

最近、イーガン読書会を主催しました。大好きなイーガンがもっと面白がれるよう、初心者向けの物理の本とか読んで頑張っています。たのしいです。

 

◎「Thisコミュニケーション」 六内円栄著

はい、12月の考察記事のやつです。クリスマスに頑張って書きました。

12月に入るまでは、今年推しの漫画は?と聞かれたら、チェンソーマンか鬼滅の刃を挙げていたはずだ。ミーハーと馬鹿にされようと、二作品ともものすごく面白かった。

しかし、友人に勧められて、ちょうど1巻無料だし1巻だけ読んだろ、と手を出したのが沼の始まりだった…。

もはや、沼の奥から出てこられず、手帳に考察を書きまくり、よりによってクリスマスイブにがちゃがちゃキーボードをたたく羽目になった。今ははやく続刊が読みたい以上の感情がない。

何がそんなに私をかきたてたのか。

それはたぶん、主人公デルウハだと思うんだよなあ。

ほぼ異生物によって世界滅亡してるディストピア世界観もテンション上がるし、不死身のバケモノになった少女たちがサイコーだし、ホラー映画の構図をうまく利用したちょっと笑っちゃう演出も素敵なんだけど…。

でも私はデルウハがめっちゃ好きですね。うん、ほんとう、飛び上がるくらい魅力的な男なんだよ。

デルウハというのは、徹底的に合理的な男で、目的のためならなんでもする。殺人も厭わないし、息を吐くように嘘を吐く。

具体的には、デルウハは不死身の少女たちが死ぬと1時間記憶を失うことを利用し、うまいこと彼女たちの信頼を勝ち取り、兵隊として育成していく。

そして彼の深淵なる目的とは何か。それは、毎日3食ごはんが食べたい!である。

最高じゃない?ごはん食べたいだけで世界を救っちゃうかもしれないんだよ?しかもパンとサラミでいいんだこいつは。まあ、人類追い詰められてるし、贅沢は言えないんだろうけど。

前にブログでも触れたけれども、デルウハは、最低最悪でありつつも、それ以上に、「もしずば抜けた頭脳と身体能力を得たら、一度はこんな風に生きてみたい」と思わせる格好良さがあるんですよ。

さて、私は、こいつに似た男を知っている。

そいつは名をランス君と言う。10年以上続く美少女ゲーム(注R18です。いわゆるエロゲーです)のシリーズの主人公を務めていた。

かつて、ランスシリーズは私の生きる希望だった。シリーズは2018年に見事完結し、この上ない大団円を迎えた。とっても最高だった。感動しすぎて呆然とした。

この辺の話もどこかで書けたらいいなと思うんだけど、今回はThisコミュニケーションと関連させた話に留めます。アダルト枠だし。

このランス君と言う男は、女の子と仲良し(隠語)することが目的で、そのためなら何でもする男なんですよ。この街を救ってくれたら仲良ししてあげますよ!って言われたら街を救っちゃうし、可愛いお姫様と仲良ししたいからっていう理由で国とか丸ごと救っちゃう。

ランス君は徹底して自分の目的のために動いていて、基本的に最低最悪なんだけれども(作中でもやっぱり嫌われたり殺されそうになったりする)、プレイヤーやあるキャラクターから見れば非常に魅力的で、そうやっておはなしや世界を動かすというのがランスシリーズのとても面白いところなんですね。

ね、デルウハと似てるでしょう。

徹底していてブレないことは、とんでもなく大きな魅力だ。現実ではなかなかそんなことはできないが、こうやって生きられたら超カッコイイ!そんな人生を、ランスシリーズやThisコミュニケーションは経験できるのです。

そして、その徹底ぶりが何かの折にちょっと崩れる(あくまでちょっと/改心するのは面白くないので)というカタルシスも、こういう作品ではめっちゃくちゃエモくて面白いシーンになると思うんだよね。

ランスシリーズは、それが正ヒロインシィルの存在で、シィルにまつわることになるとブレちゃったりするのが最高にエモかったわけなんだけど、デルウハはどうだろうか。

まだ今のところ、ブレるデルウハというのは見えていない。ブレそうなシーンはあったけど、やっぱりブレないデルウハ格好いいぜ、というところに行き着いている。

なんたって、まだ5巻しか出ていない。というか、5巻しか出てないのにこんなに面白いのは凄い。ずるい。

でも5巻の中で、どうやら正ヒロインはよみちゃんだということがわかってきた。

今後、デルウハはよみちゃんのためにブレるのか?それとも、全く関係ないところでブレるのか?ブレそうになって踏みとどまるのか?

個人的にはブレるのが王道的展開だし、デルウハとよみちゃんの関係が好きなのでそうなってほしい気持ちはあるけれども、どんな展開になっても、デルウハという男の魅力を引き立てるはずなので、どう転んでも最高になってしまうだろう。

読めば読むほど、考えれば考えるほど、続きが気になる素晴らしい作品である。

当面はこの作品読むために生きてもいいかな?と本気で思えたので、出会って間もないですが、今年の推し本(漫画部門)です。

ちなみに、よみちゃんについては、先日頑張って書いた考察記事に詳しく書いてあるので、気になった方はぜひ5巻まで読んだうえで参照してほしい。

 

こうやって書くと、世の中には面白いものが満ち満ちていて、ちゃんと読まなきゃいけないなあと思う次第。

身体もメンタルも弱ってる場合じゃなさそうなので、来年はもっともっと面白いものに触れて、面白がる体力と知性も維持していきたいと思います。

とりあえず明日も夜勤ですが、明けたら故郷の雪国で旨いもんが食えるみたいです。

良いお年を!